第1話 会計上の見積りの開示とは? ~「予測」じゃなくて「説明」だ!~
| 社長 | 白柴くん!今年は減損もなかったし、ウチの財務諸表は完璧だな!😄 |
| 経理 | 社長、それがですね…減損していなくても、「会計上の見積りの開示」は必要になる場合があるんです。 |
| 社長 | えっ!?減損してないのに、何を開示するんだ? |
| 経理 | たとえば、翌期に減損が起こる可能性が高い固定資産があれば、その見積りの内容を注記する必要があります。 |
| 社長 | まだ起きてないのに書くのか? 未来の話だろ?💦 |
| 投資家 | 「予測」を書くわけじゃない。当期に使った見積りが、翌期に重要な影響を及ぼすリスクがあるかを示すだけだ。 |
| 経理 | そのとおりです。将来を当てる注記ではなく、「今の見積りの前提条件の説明」なんです。 |
| 社長 | なるほど…減損しそうな理由とか、景気とか、そういう背景を説明するってことか。 |
| 経理 | そのとおりです。しかも対象は、原則として「翌年度」までの影響だけです。何年も先までは見ません。 |
| 投資家 | 期間を広げすぎると、情報がボヤけるからな。 |
| 社長 | ふむふむ…「見積り=怪しいから説明しろ」って感じだな😅 |
📌 図解(考え方の整理)
| 区分 | 会計上の見積りの開示 |
|---|---|
| 対象 | 当期に行った見積り |
| 見る期間 | 原則:翌期まで |
| 目的 | 利用者にリスクと前提を伝える |
| 重要キーワード | 算定方法・主要な仮定・翌期への影響 |
条文穴埋問題
Ⅰ.範 囲
2.本会計基準は、 会計上の見積りの開示 に適用する。
Ⅱ.用語の定義
3.「会計上の見積り」とは、 資産及び負債 や 収益及び費用等の額 に 不確実性 がある場合において、財務諸表作成時に 入手可能な情報 に基づいて、その 合理的な金額 を算出することをいう。
第2話 なぜ「見積りの説明」専用の基準が必要なのか? ~「変更」と「リスク」の役割分担~
| 社長 | ところで白柴くん、すでに「会計上の変更等の会計基準(第24号)」があるのに、なんでわざわざ「見積りの開示の会計基準(第31号)」が新しく作られたんだ? 見積りって、本来は「会計上の変更」に含まれてる話だろ? |
| 経理 | 社長、鋭いですね。たしかに従来の「変更等の会計基準」では、見積りの変更に対する“会計処理のルール(どう直すか)”や“影響額の開示”は定められていました。 |
| 社長 | ほう、「どう処理して、いくら影響があったか」はわかる、ということか。 |
| 経理 | はい。しかしそれだけでは、「どんな前提でその見積りをしたのか」「その前提が崩れたらどうなるか」までは財務諸表から読み取れない、という問題が出てきたんです。 |
| 投資家 | つまり、「影響額」の数字は載っていても、その数字が「どんな根拠で」「どれだけ不安定か」が読み取れず、将来のリスクを判断できなかったんだ。 |
| 社長 | あー、それじゃ投資家は怖いな😨 |
| 経理 | そこで、財務諸表の利用者が将来のリスクを判断できるように、「見積りは中身も説明させよう」という目的で、2020年に「会計上の見積りの開示」の会計基準が新しく作られたわけです。 |
| 社長 | なるほど!「変更等の会計基準」は、過去の変更の「影響」を伝える基準。「見積りの開示の会計基準」は、現在の見積もりが持つ「将来のリスク」を伝える基準、って役割分担なんだな。 |
| 投資家 | そういうことだ。そして、この新しい基準が求める開示は、当期の重要性ではなく「翌期に及ぼすリスクの大きさ」で判断される。 |
| 社長 | じゃあ当期は数万円の小さな見積りでも、来期ドカンと10億円の修正が来そうなら、開示対象になるのか😳 |
| 投資家 | その感覚で正解だ。財務諸表利用者が一番知りたいのは、「次に何が起きそうか(不確実性)」だからな。 |
| 経理 | まさに!だから、「処理ルールと変更報告(24号)」と「リスク説明ルール(31号)」は目的が別物、と覚えてください。 |
| 社長 | よし!これからは「見積りは将来リスクの説明、変更は過去の修正報告」だな🐾 |
| 投資家 | その姿勢、非常に前向きで悪くないな。 |
✅ まとめ(図解)
| 区分 | 会計上の見積りの開示 | 会計方針の変更・誤謬 |
|---|---|---|
| 役割 | リスクを説明する | 変更点を伝える |
| 対象期間 | 翌期まで | 過去にも影響 |
| 遡及修正 | なし | 原則あり |
| 本質 | 見積りの中身を伝える | 数字を正しく直す |
条文穴埋問題
Ⅲ.開 示
1.開示目的
4. 会計上の見積りは、財務諸表作成時に
入手可能な情報
に基づいて
合理的な金額
を算出するものであるが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度 入手可能 であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の
不確実性
の程度も様々となる。したがって、財務諸表に計上した金額のみでは、当該金額が含まれる項目が
翌年度
の財務諸表に影響を及ぼす可能性があるかどうかを財務諸表利用者が理解することは困難である。
このため、本会計基準は、
当年度
の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、
翌年度
の財務諸表に 重要な影響 を及ぼす リスク (有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる。以下同じ。)がある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の 理解に資する 情報を開示することを目的とする。
2.開示する項目の識別
5. 会計上の見積りの開示を行うにあたり、
当年度
の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、
翌年度
の財務諸表に 重要な影響 を及ぼす
リスク がある項目を
識別
する。
識別
する項目は、通常、
当年度
の財務諸表に計上した
資産及び負債
である。また、
翌年度
の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の金額的大きさ及びその発生可能性を総合的に勘案して判断する。
なお、直近の市場価格により時価評価する
資産及び負債
の市場価格の変動は、項目を
識別
する際に考慮しない。
第3話 注記のポイントは? ~「名前・金額・中身」の3点セット~
| 社長 | 白柴くん、結局「見積りの開示」をするってとき、何を書けばいいんだ?🤔 |
| 経理 | 見積りに関する注記は、実はとてもシンプルで、条文が「3つ書け」と明確に決めています。 |
| 社長 | お、3つなら覚えやすいな。何だ? |
| 経理 | 第1は「項目名」。つまり、見積りによる金額が翌期に大きな影響を及ぼす可能性がある“対象”を明らかにします。 |
| 投資家 | 減損損失、引当金、のれんの回収可能価額…そのへんが典型だな。 |
| 社長 | ふむふむ、まずは“何の話か”を書け、と。 |
| 経理 | 第2は「その項目の当期の金額」。つまり、いくらで計上したか。 |
| 社長 | なるほど、それは数字の話か。 |
| 経理 | そして最も重要なのが、第3。「見積りの内容がわかるその他の情報」。 |
| 投資家 | これには“算定方法”“主要な仮定”“翌期に与える影響”が含まれる。特にリスクの説明が重要だ。 |
| 社長 | つまり、「見積りの金額」だけじゃ不十分で、「どうやって見積って、その前提が崩れたらどうなるか」を説明するわけか。 |
| 経理 | そのとおりです!条文は「理解に資する情報」と表現していますが、中身はまさにその3つです。 |
| 社長 | よし!「項目名」「金額」「不確実性の説明」だな🐾 |
| 投資家 | そして、他の注記に詳しく書いてある場合は、参照するだけでよい点も忘れるな。二度書きする必要はない。 |
| 社長 | おお、それは助かる!書類作りすぎて手が震えてたところだ😅 |

