第1話 資本の部から純資産の部へ ~残りという名の正味価値~
| 社長 | 白柴くん、うちの貸借対照表を見てたら、「資本の部」が「純資産の部」に変わってるんだけど、これって名前を変えただけか? |
| 経理 | 社長、名前だけじゃありません。これは2005年の会計基準改正で、「差額概念」をはっきりさせるための変更なんです。 |
| 社長 | 差額概念っていうと? |
| 経理 | 「資産-負債=純資産」という、会社の正味の価値をストレートに示す考え方です。 |
| 社長 | なるほどな。負債を全部払ったあとに、会社にどれだけ残るかってことか。 |
| 経理 | そのとおりです。以前の「資本の部」は「株主の持ち分」という意味合いが強かったのですが、今は株主以外に帰属する項目も含む、より広い概念になっています。 |
| 投資家 | ただ、投資家として一番気になるのは、やっぱり利益だな。 |
| 経理 | まさにそこが重要なポイントです。財務報告では、投資の成果を示す利益情報が特に重視されています。 |
| 社長 | 利益って、過去の結果じゃないのか? |
| 経理 | 確かに過去の成果ですが、将来のキャッシュ・フローを予測したり、企業価値を評価したりする基礎として広く使われているんです。 |
| 投資家 | だから、今の株主だけじゃなくて、将来の株主にとっても大事な情報になるわけだな。 |
| 経理 | はい。そのため、純資産の部の中でも、当期純利益を生み出す株主資本は特に重視されます。 |
| 社長 | なるほど。それで純資産は、ひとまとめじゃないんだな? |
| 経理 | はい。純資産の部は、「株主資本」と「株主資本以外の各項目」に区分して表示されます。 |
| 投資家 | そうすると、損益計算書の当期純利益と、貸借対照表の株主資本の増減がちゃんとつながるわけか。 |
| 経理 | そのとおりです。資本取引を除いた株主資本の当期変動額は、当期純利益と一致するようになっています。 |
| 社長 | なるほどなあ。「純資産」って、ただの残りじゃなくて、利益と企業価値を結びつける土台なんだな。 |
条文穴埋問題
純資産の部の表示
4. 貸借対照表は、 資産の部 、 負債の部 及び 純資産の部 に区分し、純資産の部は、 株主資本 と 株主資本以外の各項目 (第7項参照)に区分する。
5. 株主資本は、 資本金 、 資本剰余金 及び 利益剰余金 に区分する。
6. 個別貸借対照表上、資本剰余金及び利益剰余金は、さらに次のとおり区分する。
⑴ 資本剰余金は、 資本準備金 及び 資本準備金以外の資本剰余金(以下「 その他資本剰余金」という。)に区分する。
⑵ 利益剰余金は、 利益準備期 及び 利益準備金以外の利益剰余金(以下「 その他利益剰余金」という。)に区分し、 その他利益剰余金のうち、 任意積立金 のように、株主総会又は取締役会の決議に基づき設定される項目については、その内容を示す科目をもって表示し、それ以外については 繰越利益剰余金 にて表示する。
7. 株主資本以外の各項目は、次の区分とする。
⑴ 個別貸借対照表上、 評価・換算差額等 (第8項参照)、 株式引受権 及び 新株予約権 に区分する。
⑵ 連結貸借対照表上、 評価・換算差額等 (第8項参照)、 株式引受権 、 新株予約権 及び 非支配株主持分 に区分する。
(略)
理論記述問題
Q.純資産の部には、どのような性質のものが記載されるか?
A.資産性及び負債性をもたないもの。
Q.純資産の部において、株主資本と株主資本以外の各項目を区分するのはなぜか?
A.財務報告における情報開示の中で、特に重要なのは、投資の成果を表す利益の情報であり、当期純利益とこれを生み出す株主資本は重視されるから。
Q.株主資本と株主資本以外の各項目とを区分することでどのような結果が得られるか?
A.損益計算書における当期純利益の額と貸借対照表における株主資本の資本取引を除く当期変動額が一致する。
第2話 払込資本と留保利益 ~聖域の「資本」と自由に配れる「利益」~
| 社長 | じゃあ、純資産のメインである株主資本は、何でできてるんだ? 全部オレたちの金か? |
| 経理 | 株主資本は大きく2つ、「払込資本」と「留保利益」で構成されます。 |
| 投資家 | 払込資本は株主が出資したお金、留保利益は会社が稼いで積み立てたお金。性格が違うから分ける必要があるんだな。 |
| 経理 | その通りです!払込資本は維持拘束性が強く、勝手に配当できません。会社法でも厳しく守られます。 |
| 社長 | なるほど!「預かった金(払込資本)」は守る!「稼いだ金(留保利益)」は配れる!って区別か。分かりやすい! |
| 経理 | そして、損益計算書の当期純利益は、最終的にこの留保利益を増やすことで、株主資本と利益の関係がクリーンに保たれるんです。 |
理論記述問題
Q.会計上、株主資本を払込資本と留保利益の2つに区分するのはなぜか?
A.資本を発生源泉別に分類することに、情報開示の面で従来から強い要請があったから。
第3話 評価・換算差額等 ~時価評価の揺らぎはどこへ行く?~
| 社長 | 白柴くん、この「その他有価証券評価差額金」って、どうして純資産にいるの? |
| 経理 | 「評価・換算差額等」の正体は、時価評価です。まだ売却してない「未実現の含み損益」です。これは資産性や負債性をもたないものなので、純資産の部に表示されます。 |
| 投資家 | 損益計算書を通すと、まだ確定してない利益で当期利益が大きく変動してしまうから、純資産に一時避難させてるわけだな。 |
| 経理 | そのとおりです!そして、この評価差額は、払込資本でもなく、当期純利益にもまだ含められていないので、株主資本とは区別してるんです。 |
| 社長 | ふむ!だから、株主資本ではない「株主資本以外の項目」に入ってるのか。 |
| 経理 | はい。まだ利益として確定していないため、売却時に初めて利益として振り替えられますよ。 |
理論記述問題
Q.評価・換算差額等が、純資産の部に記載されるのはなぜか?
A.評価・換算差額等は、資産性及び負債性をもたないから。
Q.評価・換算差額等が、株主資本以外の項目とされるのはなぜか?
A.評価・換算差額等は、払込資本ではなく、かつ、未だ当期純利益に含められていないから。
第4話 新株予約権 ~ 「見込み株主」の権利は負債じゃない!~
| 社長 | 評価・換算差額等はわかったけど、新株予約権が、純資産の部にあるのはなんでだ?負債じゃないのか? |
| 経理 | 以前は仮勘定として負債に入っていました。新株予約権は、将来、権利行使され払込資本となる可能性がある一方で、失効して払込資本とはならない可能性もあります。権利行使の有無が確定するまでの間、その性格が確定しないことから、仮とされていたんですね。 |
| 投資家 | ただ、新株予約権は、返済義務のあるものではないから、負債の部に表示するのは適当ではない。だから、今は純資産の部に表示されているんだな。 |
| 社長 | そうか。負債じゃなく純資産なのか。でも、なんで純資産の一番下にあるの?株主資本には入れないの? |
| 経理 | するどいですね!新株予約権は、株主じゃない新株予約権者との直接的な取引によるものです。なので、株主に帰属するものではないので、株主資本とは区別するんですよ。まだ予約の段階なので、現在の株主とは関係がないんですね。 |
| 社長 | なるほど!権利が行使されて出資されれば、払込資本に変わるというわけか。 |
| 経理 | はい。純資産の部は、確定した株主の取り分である「株主資本」と未確定な要素や将来の株主候補である「株主資本以外の項目」に綺麗に整理されてるのです! |
| 社長 | でもさ、もしその新株予約権が行使されずに失効したらどうなるんだ? |
| 経理 | いい質問です!行使されずに失効した場合、会社は株式を時価より安く引き渡す義務を免れることになります。つまり、結果的に無償で提供されたサービスを消費したと考えられるんです。そのため、権利不行使による失効益としていったん利益に計上した上で、株主資本に振り替える処理をします。 |
| 投資家 | なるほど。新株予約権を付与したときの純資産増加が、結局は株主との直接的な取引によらない形で確定するから、最終的に利益を通じて株主資本に入る、という流れになるわけだな。 |
| 社長 | なるほどなぁ。行使されても失効しても、どっちにしても最終的には株主資本に関係してくるんだな。 |
| 経理 | そのとおりです。新株予約権は「将来の株主との約束」という性格をもっているので、純資産の中でも独立した項目として表示されているんですよ。 |
| 投資家 | 後、新株予約権の発行にかかる費用は、原則として「新株予約権発行費」として営業外費用に計上する。ただし、繰延資産として処理できるのは以前、繰延資産の項目で白柴くんが少し触れていたな。 |
| 社長 | ぎくっ!そうだったっけ・・・黒柴さんよく覚えてるね! |
黒柴投資家新株予約権が失効した場合の「新株予約権戻入益」は、特別利益だぞ!
営業外収益にしがちだから気をつけよう!
理論記述問題
Q.新株予約権の性格は?
A.新株予約権は、将来、権利行使され払込資本となる可能性がある一方、失効して払込資本とはならない可能性もあるため、発行者側の新株予約権は、権利行使の有無が確定するまでの間、その性格が確定しない。
Q.新株予約権が、純資産の部に記載されるのはなぜか?
A.新株予約権は、返済義務のある負債ではなく、負債の部に表示することは適当でないから。
Q.新株予約権が、株主資本以外の項目とされるのはなぜか?
A.新株予約権は、報告主体の所有者である株主とは異なる新株予約権者との直接的な取引によるものであり、株主に帰属するものではないから。

