目次
普通社債
社債の決算処理 -利息と“差額”の正体
| 社長 | 白柴くん、そろそろウチも社債でドーンと資金調達したい!決算では何をすればいいんだ? |
| 経理 | 社債の決算処理は主に「社債利息の見越計上」と「償却原価法」 の2つです。必要に応じて行います。 |
| 社長 | 償却原価法? なんだか難しそうだな💦 |
| 経理 | 実はコレ満期保有目的債券の償却原価法と全く同じ仕組みです。債券を“持つ側”か“発行する側”かで違うだけです。 |
| 投資家 | つまり、収益か費用かが逆になるだけだな。計算自体は同じだ。 |
| 社長 | へぇ~。じゃあ社債を発行したときの差額って何者なんだ? |
| 経理 | それは 金利調整差額です。社債は金利の相場と発行条件で価格が決まるので、額面との差額は金利の調整と考えます。 |
| 投資家 | だから、社債の差額は特に疑わずに償却原価法を無条件で適用する。これが基本だな。 |
| 社長 | なるほど…社債の差額は“金利のズレ”か!ちょっとスッキリしたぞ🐾 |
利息法と定額法 -どっちでも満期で一致
| 社長 | 償却原価法って、一種類だけじゃないのか? |
| 経理 | 2つあります。利息法と定額法です。 |
| 社長 | 2つも⁉ またややこしくなりそう😢 |
| 経理 | 利息法は「帳簿価額 × 実効利率」で各期の利息を計算する方法です。定額法は、発行差額を期間で均等に割る方法です。 |
| 投資家 | 利息法のほうが“王道”だな。定額法は簡便処理というイメージか。 |
| 社長 | ふむふむ。どっちの方法でもゴールは一緒なのか? |
| 経理 | そのとおりです。満期には帳簿価額が額面金額と一致します。償却原価法の最終地点はどちらも同じなんです。 |
| 投資家 | つまり、“どんな発行価額でも、満期には額面に戻る”というわけだ。 |
| 社長 | 差額をちょっとずつ処理して、最終的に満額で調整されていくのか!よしわかった! |
利息法の深掘り -実効利率で計算せよ!
| 社長 | 新しい社債を発行したぞ!額面1,200でいくぞ、どんどん売るんだ!🐾 |
| 経理 | 社長、発行時の帳簿価額を1,100で入れてあります。利息は年1回、約定利率1%(クーポン=12)です。実効利率は4%で計算します。 |
| 社長 | えーと、じゃあ期末簿価はいくらになるんだ? 終わったら額面と同じになるんだよな?😅 |
| 経理 | そのとおりです。実効利息を計算して、約定利息との差額を償却していきます。今回の例だと、3年後に期末簿価が1,200になります。 |
| 投資家 | 四捨五入で実効利息を整数にしてるのか。端数処理をどう扱うかで最終年の償却額が変わるから、そこは明確にしとけ。 |
| 社長 | 端数って面倒だな〜。実際に計算例を見せてくれ! |
| 経理 | はい。クーポン利息は毎年12で固定です。1年目(×2.3.31)は期首1,100→実効利息44→償却32→期末1,132。2年目は期首1,132→実行利息45→償却33→期末1,165。 |
| 投資家 | そして、3年目は期首1,165→実行利息47→償却35→期末1,200だな。期末は額面1,200と一致している。発行時の差額は金利調整差額として扱うのが普通だ。 |
| 社長 | OK、よくわかった!ありがとう。じゃあちゃんと財務諸表に反映してくれよな🐶 |
| 経理 | はい、仕訳は利払日ごとに処理していきます。😌 |
利息法による償却原価法の計算(7本テーブル表)
| 利払日 | 期首簿価 | 実効利息 (4% 四捨五入) | 約定利息 (クーポン) | 償却額(実効利息 − 約定利息) | 期末簿価 |
|---|
| 02.3.31 | 1,100 | 44 | 12 | 32 | 1,132 |
| 03.3.31 | 1,132 | 45 | 12 | 33 | 1,165 |
| 04.3.31 | 1,165 | 47 | 12 | 35 | 1,200 |
- 約定利息(クーポン) = 1,200 × 1% = 12
- 02.3.31:
- 実効利息 = 1,100 × 4% = 44.0 → 44
- 償却額 = 44 − 12 = 32
- 期末簿価 = 1,100 + 32 = 1,132
- 03.3.31:
- 実効利息 = 1,132 × 4% = 45.28 → 45
- 償却額 = 45 − 12 = 33
- 期末簿価 = 1,132 + 33 = 1,165
- 04.3.31(満期):
- 実効利息 = 1,165 × 4% = 46.6 → 47
- 償却額 = 47 − 12 = 35
- 期末簿価 = 1,165 + 35 = 1,200(額面と一致)
定時償還条項付社債 -「減っていく」社債の帳簿価額
抽選償還
| 社長 | 白柴くん、ウチの社債、今年は償還なんだろ? 一気に全部まとめて払っちゃうのか? |
| 経理 | 社長、今回の社債は「定時分割償還」ですよ。定期的に一定額ずつ、分割で償還していく方式です。まとめてドーン!とはいきません。 |
| 社長 | へえ、分割払いか!資金繰りが楽ちんでおちゃめな感じだな!でも、会計処理も普通と同じでいいのか? |
| 経理 | いえ、その点に工夫が必要です。償還が分割で進むということは、社債残高が年々減少するということです。そのため、帳簿価額を計算する「償却原価法」の処理も調整する必要があります。 |
| 投資家 | 「抽せん償還」とも呼ばれるな。残高が一定額ずつ減っていくことを前提に、償却原価法の処理を行うのが合理的だ。 |
| 社長 | なるほど!社債がだんだん減っていくのを、会計の面でもちゃんと反映させないとダメなんだな💦。 |
| 経理 | そのとおりです。この残高が減っていく状況に合うように、社債発行差金などの償却額を合理的に配分するのが、「利用金額比例法」という手法なんです。定額法とも呼ばれたりします。 |
利用金額比例法
| 社長 | 利用金額比例法、なんて難しい名前なんだ😢ただ、定額法とも言うのか。結局、どうやって償却額を計算するんだ? |
| 経理 | ご心配なく。キーとなるのは「各年度の社債の利用金額」です。これは、その年度に企業が資金として利用できた社債の残高を指します。 |
| 社長 | 利用できた金額?ああ、分割で償還したら、残高が減るから利用できる金額も減っていくのか! |
| 経理 | そのとおりです!例えば、3年で償還が終わる社債の場合、利用金額の比率は、1年目:2年目:3年目で3:2:1のように年々減少します。 |
| 投資家 | 企業が社債の資金を長く、多く使った時期に、より多くの費用(償却額)を配分するということだ。この考え方が利用金額比例法の理屈だ。 |
| 経理 | 社長の言うとおり、各年度の償却額は、この利用金額の割合、つまり**「3:2:1」の比率**で総償却額を配分して計上します。 |
| 社長 | おお!これって、減価償却の級数法とそっくりじゃないか!定額法じゃないけど、理解できたぞ! |
| 経理 | はい。償却原価法の定額法なので。減価償却の定額法とは違いますね。 |
| 投資家 | この合理的な計算で、償還が進むにつれて社債の帳簿価額が適切に調整されていくんだな。 |
新株予約権付社債 -社債と株式のハイブリッド!
転換社債型とその他
| 社長 | 白柴くん、また魅力的な資金調達を見つけたぞ!「新株予約権付社債」だ! |
| 経理 | おぉ!社債に「株式を買う権利」がくっついた商品ですね。 |
| 投資家 | 日本で多いのは「転換社債型」だ。新株予約権を行使すると、社債を返すだけで払込ができる(=代用払込)。 |
| 社長 | 現金いらないのか!それは投資家に優しいな。 |
| 経理 | 一方、転換社債型以外の新株予約権付社債「その他」は、制度上、社債での代用もできますが、現金払込が原則です。 |
| 投資家 | やはり、社債の代用払込のメリットが大きいから、圧倒的に転換社債型が人気だな。 |
| 社長 | じゃあ、うちが発行するのは転換社債型で決まりだ!会計処理はどうなるんだ? |
| 経理 | 発行者は 転換社債型なら「一括法 or 区分法」 を選べます。その他は「区分法のみ」です。 |
区分法と一括法
発行時
| 社長 | まず、発行時はどうなるんだ? |
| 経理 | 一括法はとても簡単です。払込100万円を全部「社債」として記録します。 |
| 投資家 | 区分法は、社債90万円と新株予約権10万円に分けて記録する。 |
(一括法)
(区分法)
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|
| 現金 | 100 | 社債 | 90 |
| | 新株予約権 | 10 |
決算時
| 社長 | 1年経ったらどうなるんだ? 確か、2年後返済の社債だ。 |
| 経理 | 一括法は、額面=発行価額なので何もしません。帳簿価額はそのまま100万円です。 |
| 投資家 | 区分法は違う。社債は本来100万円の価値。しかし払込は90万円だった。だから2年間で10万円を調整する必要がある。 |
| 経理 | よって1年目には 5万円の利息費用を計上 して、社債の帳簿価額を 90→95 に増やします。 |
(区分法のみ)
権利行使時
| 社長 | ついに黒柴さんが権利を行使したぞ!株式を発行だ! |
| 投資家 | 代用払込になるから、社債をそのまま返して株をもらうぞ。 |
| 経理 | ここで、一括法と区分法で結果の「内訳」が少し変わります。 |
(一括法)社債の帳簿価額は100万円 → 全額資本金へ
(区分法)社債 95万円、新株予約権 10万円= 合計105万円が資本金へ
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|
| 社債 | 95 | 資本金 | 105 |
| 新株予約権 | 10 | | |
社長の疑問「区分法の方が資本金が増えて得なのか?」
| 社長 | え? 区分法だと資本金105万円になるのか? お得じゃないのか? |
| 経理 | 見かけはそうですが、区分法は途中で「利息5万円」を費用計上しています。つまり利益剰余金が5万円減っています。 |
| 投資家 | 資本金105 − 利益剰余金5 = 100 結局、純資産は同じ100万円増えるだけだ。内訳の違いだな。 |
| 社長 | じゃあ得も損もないのか! |
| 経理 | はい。区分法では、社債部分を時価で評価するため、時間の経過に応じて帳簿価額を調整する必要があるんです。つまり、“時間価値を考慮する”処理なんですね。 |
| 投資家 | 一方、一括法はそのような“時間価値の調整をしない”。最初に受け取った金額をそのまま社債とみなし、行使時に丸ごと資本金などへ振り替えるだけだな。 |
| 社長 | スッキリした!結局は純資産の合計が同じなら、会計処理で得も損もないんだな! |
一括法の会計処理
| 発行時 | 現金預金 ×× | 社債 ×× | 払込金額を一括して処理する |
| 決算時 | 社債利息 ×× | 社債 ×× | 償却原価法で社債の価額の調(割引発行の場合) |
| 権利行使時 | 社債 ××
| 資本金 ×× 資本準備金 ×× | 自己株式を処分することでもできる |
| 権利行使期間満了時 | 仕訳なし | | 新株予約権勘定がないため |
区分法の会計処理
| 発行時 | 現金預金 ×× | 社債 ×× 新株予約権 ×× | 払込金額を区分して処理する |
| 決算時 | 社債利息 ×× | 社債 ×× | 償却原価法で社債の価額の調整 |
| 権利行使時 | 社債利息 ×× 社債 ×× 新株予約権 ×× | 社債 ×× 資本金 ××
| 新株予約権を取り崩すのを忘れないこと |
| 権利行使期間満了時 | 新株予約権 ×× | 新株予約権戻入益 ×× | 特別損益 |
一括法の権利行使期間満了時の「仕訳なし」は、案外忘れやすいから要注意だぞ。
「社債」の本試験ポイント
- 利息法は利払日で社債の償却をするので、決算整理仕訳はありません。
- 利払日≠決算日の場合は、社債利息の見越計上が必要です。
- 利息の見越計上の日数は、前回の利払い日から決算日です。半年ごとの利払日は注意。
- 社債の買入償還が複雑な場合でも、定額法であれば、後T/Bの社債残高は償却後の割合だけで出せるので回答しやすいです。
- 社債のうち、1年以内に償還期限が到来するものは流動負債の「1年以内償還社債」、1年超のものは固定負債の「社債」として表示します。