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会計方針の変更 - 棚卸の評価を変えたら、どこに影響する?
| 社長 | 白柴くん、今年から棚卸資産の評価方法を「総平均法」から「先入先出法」に変えたけど、これって確か、会計上の変更になるんだったよね? |
| 経理 | はい、社長。これは「会計方針の変更」で、原則として「遡及適用」になります。 |
| 社長 | 評価方法を変えると、どこに数字の影響が出るんだ? |
| 経理 | 原価BOXで言うと、①期首商品棚卸高、②期末商品棚卸高、③売上原価 の3つです。 |
| 社長 | 仕入高は変わらないのか? |
| 経理 | はい。仕入高は外部との取引額なので、評価方法を変えても金額は動きません。前期の仕入高9,600千円はそのままです。 |
| 社長 | なるほど。じゃあ前期(第2年度)の数字はどうなるんだ? |
| 経理 | 次のように変わります。 ・期首商品:800 → 880(+80) ・当期商品仕入高:9,600(そのまま) ・期末商品:1,100 → 1,300(+200) ・売上原価:9,300 → 9,180(△120) |
| 社長 | 売上原価を、原価BOXの差額で出すんだよね? |
| 経理 | はい。売上原価=期首商品+仕入高-期末商品 なので、880+9,600-1,300=9,180 となり、以前の9,300より120減少します。 |
| 投資家 | つまり第2年度は、売上原価が120減った分だけ、利益は120増えたわけだな。 |
| 経理 | はい。そして第1年度でも、期末商品が80増えているので、利益が80増えています。 |
| 社長 | じゃあ、第1年度+80、第2年度+120で、合計+200か。 |
| 経理 | そのとおりです。この200千円が、会計方針の変更による「累積的影響額」です。 |
| 社長 | その200はどこに持っていくんだ? |
| 経理 | 翌期首で「繰越利益剰余金」を増加させます。 |
| 社長 | 仕訳はどうなるんだ? |
| 経理 | 仕訳は1本です。(借)繰越商品 200 /(貸)繰越利益剰余金 200 |
| 社長 | 第1年度+80、第2年度+120はどうするの? |
| 経理 | 第1年度の期末+80は、第2年度の期首+80と相殺されます。結果として最終的に残るのは、前期末(第2年度末)商品の+200だけです。 |
| 投資家 | つまり、評価方法の変更はどれだけ遡っても、最後に残るのは「前期末=当期首の商品」の差額だけってことだな。 |
| 経理 | はい。その差額200が累積的影響額となります。 |
| 社長 | 誤謬じゃなくてルール変更だから、過去を読み替える必要があるわけだな。 |
| 経理 | そのとおりです。これが会計方針の変更の遡及適用です。 |
白柴経理上の仕訳に税効果会計(30%)を適用した場合、(借)繰越商品200/(貸)繰延税金負債60と繰越利益剰余金140となります。これは、その他有価証券の時価評価と同じ仕訳パターンと覚えておきましょう
会計上の見積りの変更 -「予想」は未来だけ直す!
| 社長 | 白柴くん、うちの機械だけどさ、思ったより長持ちしそうなんだ!耐用年数、伸ばしちゃっていいよな?😆 |
| 経理 | それは「会計上の見積りの変更」に該当しますね。 |
| 社長 | 見積りの変更?会計方針の変更とは違うのか? |
| 経理 | はい。減価償却の耐用年数や残存価額、引当金の金額などは「見積り」です。 |
| 投資家 | 見積りは、その時点での最新・最善の情報で決めるものだ。 |
| 社長 | じゃあ、昔の見積りが間違ってたらどうなるんだ? |
| 経理 | それは、見積りの変更ではなく「過去の誤謬の訂正」になります。今日はそこじゃありません。 |
| 社長 | なるほど、今回は「当時は正しかった」って前提なんだな。 |
| 経理 | そのとおりです。そして、会計上の見積りの変更は、過去に遡りません。 |
| 社長 | えっ!?じゃあ、前の決算は直さなくていいのか? |
| 経理 | はい。**当期以降だけに影響させる「将来適用」**が原則です。 |
| 投資家 | 会計方針の変更が遡及適用だったのと、ここが決定的に違う。 |
| 社長 | なんで見積りだけ遡らないんだ? |
| 経理 | 見積りは、そもそも変更が起こる前提のものだからです。新しい情報が入ったら、必ず見直すべきものなんです。 |
| 社長 | じゃあ、ちょっとした差でも全部直す必要があるのか? |
| 経理 | 重要性の乏しい変更なら、無理に直さなくてもOKです。 |
| 投資家 | 1円のズレまで必死に直す必要はない、という考え方だ。 |
| 社長 | じゃあ耐用年数を伸ばしたら、どう処理するんだ? |
| 経理 | 変更時点の帳簿価額を、変更後の残存年数で割って、そこから償却します。 |
| 社長 | 取得時まで戻って計算し直したりは…? |
| 経理 | それはしません。過去の減価償却はそのままです。 |
| 投資家 | つまり、見積りの変更は未来だけに効くというわけだ。 |
| 社長 | なるほどな~。会計方針と見積り、似てるけど扱いが真逆だな😲 |
| 経理 | はい。会計方針は原則変えない・遡及あり、見積りは適宜見直す・遡及なしが大原則です。 |
過去の誤謬の訂正 -「間違い」は過去まで直す!
| 社長 | 白柴くん、大変だ💦 去年の決算、減価償却を間違ってたかもしれん! |
| 経理 | それは、「過去の誤謬の訂正」に該当しますね。 |
| 社長 | えっ、今から直せばいいんじゃないのか? |
| 経理 | いいえ。誤謬は「前期以前」にさかのぼって遡及処理します。 |
| 投資家 | そうだな。「修正再表示」が必要だ。 |
| 社長 | じゃあ、わざとでも、うっかりでも同じ扱いか? |
| 経理 | はい。故意かどうかは区別しません。会計上の取扱いは同じです。 |
| 投資家 | 法律や道徳の問題とは別だな。 |
| 社長 | 修正再表示って、表示だけ直せばいいのか? |
| 経理 | いいえ。帳簿上の修正処理も必要になるのが普通です。 |
| 投資家 | 見た目だけ直しても、中身が間違っていれば意味がない。 |
| 経理 | なお、会計方針に関する誤謬の訂正は、正当な理由による会計方針変更と同じ遡及処理をします。 |
| 社長 | へぇ、誤謬でも会計方針変更と同じ扱いなんだな。 |
| 経理 | 次に大事なのが、「見積りの変更」と「誤謬の訂正」の違いです。 |
| 社長 | どう違うんだ? |
| 経理 | 過去の見積りが間違っていたら誤謬、当時は正しかったなら見積り変更です。 |
| 投資家 | ここは大事なところだ。 |
| 経理 | 例えば、耐用年数の設定ミスが誤謬なら、累積的影響額を期首の繰越利益剰余金に反映させます。 |
| 社長 | 期首ってことは、いきなり純資産が動くのか😨 |
| 経理 | そのとおりです。その上で、修正後の耐用年数で当期分の減価償却を計上します。 |
| 投資家 | 翌期以降も、修正後の金額で償却を続ける。 |
| 社長 | なるほど…過去も今も、両方直すんだな。 |
| 経理 | はい。誤謬は「なかったこと」にはできませんから。 |
🔎 図解:会計方針の変更と会計上の見積りの変更の違い
| 区分 | 例 | 遡及処理 |
|---|---|---|
| 会計方針の変更 | 棚卸資産の評価方法の変更(総平均法⇒先入先出法) | する(遡及適用) |
| 会計上の見積りの変更 | 減価償却資産の耐用年数の変更(8年⇒5年) | しない(将来のみ) |
| 過去の誤謬の訂正 | 前期の営業費未払計上漏れ | する(修正再表示) |
「会計上の変更・誤謬の訂正」の本試験ポイント
会計方針の変更
- 棚卸資産の評価方法の変更である場合には、前期末商品(当期首商品)の変更前と変更後の差額の仕訳を切るだけです。
会計上の見積りの変更
- 固定資産取得時の耐用年数の見積りが適正である場合は、その後の耐用年数の変更は「会計上の見積りの変更」に該当するため、遡及処理は不要です。
過去の誤謬の訂正
- 固定資産取得時の耐用年数の見積りが誤りである場合は、「過去の誤謬の訂正」に該当するため、遡及処理が必要です。

