目次
約定日基準と修正受渡日基準 - 約定日と受渡日の“タイミング論争”
| 社長 | 白柴くん!A社株(売買目的)を1,000で買う契約を交わしたぞ!もう“資産”ってことでいいよな? ハンコ押したし! |
| 経理 | さすが社長!でも有価証券の取引には「約定日基準」と「修正受渡日基準」の2つがあるんです。 |
| 社長 | なんだそれ? どっちで考えるんだ? |
| 経理 | まず約定日基準は、契約が成立した日(約定日)に資産や負債を認識する方法です。ハンコを押した瞬間からリスクとリターンが動き始めると考えます。 |
| 社長 | なるほど、株券が届く前にもう“ウチのもの”ってわけか。 |
| 経理 | そのとおりです。たとえば3月30日に契約、決算が3月31日、受渡が4月2日なら──約定日基準では3月31日時点で資産を保有している扱いになります。 |
| 投資家 | つまり、“気持ちはもう持ってる”状態ってことだな。 |
| 経理 | 一方、修正受渡日基準は、株式や代金の受渡が実際に行われた時点(受渡日)で資産や負債を認識します。モノとカネが動くまではまだ帳簿に載せません。 |
| 社長 | 実際のやり取りが終わるまで認識しないのか。慎重派だな。 |
| 経理 | はい。ただし、修正受渡日基準でも決算日をまたぐ場合は注意が必要です。たとえばさっきの例で、3月31日が決算日・時価が1,010だったとします。 |
| 社長 | その時点ではまだ受渡してないけど、株価は上がってるな。 |
| 経理 | そうなんです。受渡日前でも買手は決算日に時価の変動差額を評価損益として計上します(例:10の評価益)。一方、売手は約定日に売却損益を認識します(原価800)。 |
| 社長 | なるほど、モノの受渡はしてなくても、値動きの影響はちゃんと反映するのか。 |
| 経理 | ええ。実際の受渡日(4月2日)に資産の発生・消滅を認識するのが修正受渡日基準の特徴です。つまり、契約と実際の処理を分けて考えるわけです。 |
| 投資家 | 結局、“約定日派”はスピード、“受渡日派”は慎重さって感じだな。 |
| 社長 | どっちも一理あるな。うちは…うーん、“堅実だけど反応の早い柴犬会計”でいこう🐾 |
≪買手と売手の仕訳処理≫
| 買手の仕訳 | 約定日基準 | 修正受渡日基準 |
|---|---|---|
| 約定日 | (借)有価証券 1,000 / (貸)未払金 1,000 | 仕訳なし |
| 決算日 | (借)有価証券 10 / (貸)有価証券評価損益 10 | (借)有価証券 10 / (貸)有価証券評価損益 10 |
| 受渡日 | (借)未払金 1,000 / (貸)現金預金 1,000 | (借)有価証券 1,000 / (貸)現金預金 1,000 |
| 売手の仕訳 | 約定日基準 | 修正受渡日基準 |
|---|---|---|
| 約定日 | (借)未収金 1,000 / (貸)有価証券 800 有価証券売却益 200 | (借)有価証券 200 / (貸)有価証券売却益 200 |
| 決算日 | 仕訳なし | 仕訳なし |
| 受渡日 | (借)現金預金 1,000 / (貸)未収金 1,000 | (借)現金預金 1,000 / (貸)有価証券 1,000 |
白柴経理修正受渡日基準において、売買目的有価証券については、約定日に売却損益を認識しますが、実務上は決算日に売却損益を認識することも認められています。また、その他有価証券については、決算日に売却損益を認識することとされています。


有価証券の単価計算 - 平均って一つじゃない!
移動平均法と総平均法
| 社長 | 白柴くん、株を買ったんだけど、1株の単価ってどう出すんだ?数字がゴチャゴチャしてて💦 |
| 経理 | そこは 移動平均法 と 総平均法 を使います。簡単な例でいきますね。① 100円×100株=10,000円、追加取得で② 120円×50株=6,000円 |
| 社長 | で、単価は? |
| 経理 | 移動平均法は、受け入れるたびに単価を付け替えます。(10,000円+6,000円)÷150株=106円 |
| 投資家 | 売却するならこの時点の 106円 を使う。これが移動平均の特徴だ。 |
| 社長 | おお、逐一更新するのが“移動”ってことか🐾 |
| 経理 | 一方の 総平均法は、期中の受入が全部終わってから平均を出します。売却前に単価が確定しないのが特徴です。 |
| 社長 | ふむ、タイミングが違うだけでも全然違うね😢 |
追加取得以外で単価替えが必要なケース
| 社長 | 白柴くん、うちの保有株Aなんだけど、期末の時価評価で「1株あたりの単価」が変わるって聞いたぞ? |
| 経理 | はい。まず、取得時は 1株1,000円×100株=10万円 でしたよね。 |
| 社長 | うん。 |
| 経理 | 期末の時価が 1株1,200円 だと、評価額は 12万円(1,200円×100株) です。帳簿価額との差額 2万円 が評価差額です。 |
| 投資家 | つまり、時価が上がった分だけ評価差額が出るわけだな。 |
| 社長 | で、単価は1,200円に変わるのか? |
| 経理 | はい。ただ、ここで 洗替法 と 切放法 の違いが出ます。 |
| 投資家 | 大事なところだ。 |
| 経理 | 〈洗替法〉では、期末だけ単価を 1,200円 に付け替えますが、翌期首には評価差額を戻すので、単価は再び 1,000円 に戻ります。 |
| 社長 | つまり、期末だけ時価に合わせるってことか。 |
| 投資家 | 一時的な付替え、という感じだな。 |
| 経理 | 一方で 〈切放法〉は、期末に 1,200円 に付け替えたら、そのまま翌期以降も 1,200円 を新しい帳簿単価として使います。 |
| 投資家 | こちらは恒久的に単価が更新されるわけだ。 |
| 社長 | なるほど。時価評価でも、方法によって翌期の扱いが違うんだな。 |
| 投資家 | ほかにも、株式分割があった場合にも、単価が変わる。 |
| 社長 | なに!それはどういうこと? |
| 経理 | 例えば取得時は 1株1,000円×100株=10万円 だったとします。これが 1株→2株 に分割された場合、株数は 100株→200株 になります。 |
| 投資家 | でも価値は変わらないはずだな。 |
| 経理 | はい。そのため、単価を 1,000円 ÷ 2 = 500円 に付け替えます。結果、200株×500円=10万円 となり整合します。 |
| 社長 | 時価とは関係なく、株数に合わせて単価を割り直すだけなんだな。 |
| 投資家 | そうだ。分割のときは、評価差額とか関係なく、機械的に比例で単価付替えだな。 |
| 経理 | はい。まとめると、 ・時価評価:単価は洗替法か切放法かで翌期の扱いが変わる ・株式分割:株数に応じて単価を比例で付け替える ということです。 |
| 社長 | よし、だいぶ理解できたぞ! |
配当金の受取処理 - 財源と保有目的で変わるんだ!
| 社長 | 経理くん!配当金を受け取ったぞ!これでうちもウハウハだ!😆 |
| 経理 | いいですね社長。でも配当金って、どこを財源として払われたか、そしてうちがどんな目的で株を持っているかで会計処理が変わるんですよ。 |
| 社長 | えっ💦 配当金なんて全部「受取配当金」でいいんじゃないの? |
| 経理 | 実は違います。例えば、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)からの配当なら、一律で受取配当金(営業外収益)に計上します。 |
| 投資家 | だが、その他資本剰余金からの配当はそうはいかない。保有目的で処理が変わるんだ。 |
| 社長 | なんか難しくなってきたぞ…😢 うちはどうしてたっけ? |
| 経理 | うちが多いのは「その他有価証券」なので、その他資本剰余金からの配当は投資の回収(資本の払い戻し)として処理します。つまり、受取配当金じゃなくて、投資額の減少になるんです。 |
| 社長 | え?受取配当金に入らないの?ショックだな…💦 |
| 投資家 | でも、売買目的有価証券は話が違うぞ。短期売買が目的だから、株主としての性質が薄い。だから「資本の払い戻し」の考えは当てはめない。 |
| 経理 | そうですね。売買目的なら、その他資本剰余金からの配当でも、結局は受取配当金として処理します。 |
| 社長 | なるほど!つまり——利益剰余金 → 全部受取配当金資本剰余金 → 保有目的で変わるってことか!これ覚えやすいぞ🐾 |
| 投資家 | そのとおり。財源と保有目的、この2つを押さえれば完璧だな。 |
配当金の受取側の会計処理
| 配当の財源 | 売買目的有価証券 | その他有価証券 | 子会社及び関連会社株式 |
|---|---|---|---|
| その他利益剰余金 | 受取配当金 (営業外収益) | 受取配当金 (営業外収益) | 受取配当金 (営業外収益) |
| その他資本剰余金 | 受取配当金 ※株主としての地位が薄いため | 投資有価証券 ※資本の払い戻しとして扱う | 関係会社株式 ※資本の払い戻しとして扱う |
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その他資本剰余金からの配当で「投資有価証券」を減額した場合、期末のその他有価証券の時価評価で、その減額分を考慮するのを忘れやすいから注意だ!
保有目的区分の変更とは - 勝手に変えるとアウト!?
| 社長 | 白柴くん、今うちで持ってる株さ、売買目的からその他有価証券に変えちゃダメかな? 含み益も出てるしさ~😏 |
| 経理 | 正当な理由がない限り、保有目的区分の変更は禁止されていますよ。 |
| 社長 | えぇ~!会社の都合で変えちゃいけないの? うちは自由な会社だぞ~💦 |
| 経理 | ダメです。むやみに変更できると、利益操作ができてしまうからです。区分ごとに会計処理が違う以上、コロコロ変えられたら財務諸表の信頼性が崩れます。 |
| 社長 | じゃあ、どんなときなら変更していいんだ? |
| 経理 | 例えば、トレーディング部門を新設・廃止した場合ですね。 |
| 投資家 | あとは、持分が増えて関係会社から子会社になるケースや、その逆もあるな。 |
| 社長 | なるほど、会社の実態が変わったときだけってことか。 |
| 投資家 | 特に、満期保有目的の債券からの変更は、よほどの資金難でもない限り認められない。 |
| 社長 | じゃあ、もし変更できたとして、いくらの値段で振り替えるんだ? |
| 経理 | はい。原則は有価証券がいったん清算されたと考えますので、変更前の評価基準に従います。下に一覧表をつけました。 |
| 社長 | おぉ! あれっ、変更後の区分に満期保有目的がないぞ。最初は満期保有のつもりじゃなかったけど、途中から「やっぱ満期まで持つ!」って変更するのはダメなのか? |
| 経理 | だめです。満期保有目的は「取得当初からその意思があること」が大前提だからです。 |
| 社長 | うぅ厳しい。それにしても、その他有価証券だけ、扱いがややこしいな😵 |
| 経理 | そうなんです。ここが一番ひっかかりやすいところです。 |
| 投資家 | しかもな、振替時に出た評価差額は、すべて当期損益だ。 |
| 社長 | え? その他有価証券って、ふだんは純資産直入じゃなかったか? |
| 経理 | いいところに気づきました社長!でも区分変更の時は「清算」と同じ扱いなので、純資産直入は一切しません。 |
| 社長 | つまり…振り替えた瞬間に、ドカンと損益に出るってことか💦 |
◆変更時の振替価額の一覧表
| 変更前の区分 | 変更後の区分 | 変更時の振替価額 | 振替価額 | |
|---|---|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 関係会社株式 その他有価証券 | 変更時の時価 | 損益計上 | |
| 満期保有目的の債券 | 売買目的有価証券 その他有価証券 | 変更時の償却原価 | - | |
| 関係会社株式 | 売買目的有価証券 その他有価証券 | 帳簿価額 | - | |
| その他有価証券 | 売買目的有価証券 | 変更時の時価 | 損益計上 | |
| 関係会社株式 | 全部純資産直入法 | 帳簿価額 | - | |
| 部分純資産直入法 | 評価益:帳簿価額 | - | ||
| 評価損:前期末時価 | 損益計上 | |||
| 社長 | それにしても、その他有価証券が関係会社株式になるときって、処理がややこしいな😵 |
| 経理 | はい。ポイントは、全部純資産直入法か、部分純資産直入法か、そして前期末が含み益か含み損かです。 |
| 社長 | まず、全部純資産直入法の場合は? |
| 経理 | 変更時の帳簿価額で、そのまま振替です。評価差額も損益も一切なしです。 |
| 社長 | そこはわかりやすいな😊 じゃあ、部分純資産直入法の場合は? |
| 経理 | この場合、前期末が評価益だった場合は、全部純資産直入法と同じで、帳簿価額のまま振替です。利益はあえて認識しません。 |
| 社長 | 利益があるのに、あえて無視するのか…なんかもったいないな😅 |
| 経理 | 利益は慎重に、が会計のルールです。 |
| 社長 | 問題は…前期末が含み損のときだな?💦 |
| 経理 | そのとおりです。まず前提として、部分純資産直入法では、前期末に評価損だったものが、当期では 洗替法で「評価益」に計上済み になってしまいます。 |
| 社長 | え…ってことは、帳簿上は損をいったん戻してるってことか?💦 |
| 経理 | そのとおりです。そうすると、本当は損しているのに、あたかも「評価益が出たような見た目」になってしまいます。 |
| 社長 | うわっ…それは完全におかしいな😨 |
| 投資家 | だから、このケースだけは特別処理をする。 |
| 社長 | どうやって直すんだ? |
| 経理 | 「変更の際に、前期末の時価をもって関係会社株式に振り替える」んです。 |
| 社長 | 変更時の帳簿価額じゃなくて、前期末の時価か! |
| 投資家 | そうすることで、意味不明な評価差益が出るのを防ぐ。 |
| 社長 | なるほど…辻つま合わせの調整なんだな。 |
| 経理 | そうですね。正直、ここは非常に隅っこの論点なので、気にしなくてもいいかもしれません。 |
| 社長 | たしかにな。なんか面倒だから、そもそも保有目的区分の変更をしないようにするよ… |
「有価証券」の本試験ポイント
- 有価証券の内訳に「前期末時価」が与えられている場合、子会社株式やその他有価証券の減損処理が前期末に行われている可能性が高いです。評価差額を計算する際は、減損処理後の帳簿価額と当期末時価を比較します。
- その他有価証券(社債)について「償却原価法」を適用した場合、適用後の帳簿価額(償却原価)と当期末時価を比較します。また、翌期首の再振替仕訳は時価評価の部分だけ振り戻します。
- その他有価証券の株式の受取配当金(原資:その他資本剰余)を受領した後の期末評価において、配当分を減額した後の帳簿価額と当期末時価を比較するのを忘れないこと(by 黒柴)。
- 保有目的区分を変更した場合、振替後の区分が「売買目的有価証券」または「その他有価証券」であれば、期末においても、振替後の区分に応じた基準で再び時価評価を行う必要がある点は忘れやすいため注意が必要です。
- 有価証券の内訳に、株式や債券以外の投資信託も含まれていたりします。時価がないケースが多いので、そのまま原価法で有価証券に含めます(問題文の指示に従います)。
- 残高試算表にその他有価証券評価差額金が残っている場合は、前期末の時価評価の再振替仕訳が行われていない可能性が高いです。

