目次
ヘッジ取引 ― リスクは逃げてもいい!
| 社長 | よーし!海外から原材料を仕入れて、利益ドーンと狙うぞ!為替?まあ上がったら上がったで😆 |
| 経理 | 社長、それはちょっと危険です💦 為替変動リスクがありますから。 |
| 社長 | リスク?攻めてこそ経営だろ~! |
| 経理 | 会計では、リスクを放置するより、あらかじめ回避する行動が評価されます。それが「ヘッジ取引」です。 |
| 社長 | ヘッジ…?芝生の刈り込みみたいな名前だな🐾 |
| 投資家 | 違う。ヘッジは相場変動による損失の可能性を打ち消す取引だ。価格、金利、為替が典型だな。 |
| 経理 | はい。リスクを抱えている資産や負債を「ヘッジ対象」、それを打ち消す取引を「ヘッジ手段」といいます。 |
| 社長 | つまり、危なそうなところにクッションを置く感じ? |
| 経理 | まさにそのイメージです。そのクッション役として、デリバティブ取引がよく使われます。 |
| 投資家 | 重要なのは、ヘッジ目的であることが明確かどうかだ。後付けは認められない。 |
| 社長 | なるほど…勢いだけじゃダメってことか😢 |
【図解イメージ】
為替変動リスクを抱えた取引(ヘッジ対象)
↑
為替予約・先物など(ヘッジ手段)
↓
リスクを相殺・減殺
| ヘッジ対象 | 方向 | ヘッジ手段 |
| 変動金利の借入金 | ← ヘッジ — | 金利スワップ 変動金利を受取、固定金利を支払。 |
| その他有価証券を保有 | ← ヘッジ — | 先物取引 債券先物を売建て |
| 外貨建金銭債権債務 | ← ヘッジ — | 為替予約 決済のレートを予約 |
繰延ヘッジと時価ヘッジ ― ズレた損益をそろえる方法
| 社長 | でさ、ヘッジ取引をしたら、会計処理は普通でいいの? |
| 経理 | そこがポイントです。損益の出るタイミングがズレることがあるんです。 |
| 社長 | ズレる?同時に効いてくれないの? |
| 経理 | ヘッジ手段のデリバティブは、期末に時価評価して当期損益になります。でも、ヘッジ対象の損益は将来に出ることも多いんです。 |
| 投資家 | そのままだと、今期は損だけ出て、ヘッジ効果が見えなくなる。財務諸表として不自然だ。 |
| 経理 | そこで使うのが「ヘッジ会計」です。目的はただ一つ、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を同じ会計期間に認識すること。 |
| 社長 | おお、ズレを強制的にそろえるんだな! |
| 経理 | 方法は2つあります。原則は「繰延ヘッジ」、例外が「時価ヘッジ」です。 |
| 社長 | 原則と例外、テストに出そうだな💦 |
| 投資家 | 繰延ヘッジは、ヘッジ手段の損益をいったん純資産にためる。時価ヘッジは、ヘッジ対象の評価差額を損益に引っ張り出す。 |
| 経理 | そのとおりです。しかも繰延ヘッジは、原則として税効果会計もセットです。 |
| 社長 | へぇ~、ヘッジって守りだけど、会計はかなり厳密なんだな🐾 |
| 投資家 | 利益操作を防ぐためだ。だから事前の文書化や有効性の確認が必須になる。 |
| 社長 | よし!攻めるなら、ちゃんと守りも固めるぞ! |
【整理ミニ図解】
① 繰延ヘッジ(原則)
ヘッジ手段の損益 → 純資産(繰延ヘッジ損益)に一時保管
② 時価ヘッジ(例外)
ヘッジ対象の評価差額 → 当期損益に振替
予定取引に係る為替予約 ― まだ買ってないのに、もう予約?
| 社長 | 来期にアメリカから500千ドル分のドッグフードを輸入する予定なんだが、円安で支払額が増えるのが怖いから今のうちに為替予約をしたいんだ。 |
| 経理 | 承知いたしました。今回のように実行される可能性が極めて高いものは、会計上「予定取引」として扱えます。3月10日に1ドル108円で500千ドルの買い予約を実行しました。 |
| 社長 | よし、これで将来の支払額を108円に固定できたな。この予定取引には「ヘッジ会計」が適用できるって、黒柴さんから聞いたんだけど、どういう仕組みなんだ? |
| 経理 | ヘッジ対象(買掛金の為替リスク)とヘッジ手段(為替予約)の損益を一致させる仕組みです。今回は原則的な「繰延ヘッジ」の方法で処理を進めます。 |
| 社長 | 繰延ヘッジ? 3月31日の決算日になったけど、現在の先物相場は110円/ドルだそうだが、評価はどうなる? |
| 経理 | 500千ドル × (110円-108円) = 1,000千円の為替差益が発生しています。ただし、予定取引に係るヘッジなので当期の損益には計上しません。 |
| 社長 | 利益が出ているのに損益計算書(P/L)には載せないのか? |
| 経理 | はい。ヘッジ対象の取引が実行されるまで、税効果会計を適用した上で、貸借対照表(B/S)の純資産の部にある「繰延ヘッジ損益」へ計上して待機させます。 |
| 投資家 | 決算ではまだ表に利益を出さないが、B/Sに繰延ヘッジ損益を載せることで、為替予約をしているという実態を財務諸表に反映させる意味があるんだ。 |
| 社長 | なるほど、実態を反映しつつ、取引時まで損益を「繰り延べる」わけか。さて、4月20日になった。予定通り商品を輸入したぞ。今日の直物相場は113円だ。 |
| 経理 | まず独立処理として、仕入取引を 500千ドル × 113円 = 56,500千円 で計上します。一方で、為替予約の評価は決算時の110円から112円(先物)に上がっています。 |
| 投資家 | 取引実行時点までの予約の追加差益 500千ドル × (112円-110円) = 1,000千円も、いったん繰延ヘッジとして扱われるわけだ。 |
| 社長 | ここまで貯まった「繰延ヘッジ損益」はどう処理するんだ? |
| 経理 | ここでまとめて「仕入」へ振り替えます。繰延ヘッジ損益の合計1,400千円と繰延税金負債600千円を戻し、合計2,000千円を仕入勘定に加算します。 |
| 社長 | ほ~。実質的な仕入金額は 56,500 + 2,000 = 58,500千円 になるということだな。 |
| 経理 | その通りです。そして最後、5月20日に為替予約の決済日を迎えました。直物相場は116円/ドルです。 |
| 社長 | 予約は108円だったから、差金として 500千ドル × (116円-108円) = 4,000千円を受け取れるな! |
| 経理 | はい。この決済段階ではもう繰延処理は不要ですので、全額を「為替差益」として損益処理することになります。 |
| 投資家 | 同時に輸入代金の支払いもあるな。買掛金は113円で計上されているが、実際の支払は116円だから、為替差損が1,500千円発生する。 |
| 社長 | 取引までは繰延、取引時に仕入へ、決済時は損益。予定取引におけるヘッジの流れが、仕訳と合わせてよく分かったよ! |
期間別の会計処理ポイント
| 時点 | 内容 | 会計処理のポイント |
| 3月10日 | 為替予約締結(108円) | 仕訳なし(時価ゼロのため) |
| 3月31日 | 決算日(先物110円) | 評価差益1,000千円を「繰延ヘッジ損益」として計上(税効果適用) |
| 4月20日 | 輸入実行(直物113円) | 仕入56,500千円を計上し、繰延ヘッジ分2,000千円を仕入原価へ振替 |
| 5月20日 | 予約決済・代金支払 | 予約差金4,000千円を為替差益、支払時の差額1,500千円を為替差損として処理 |
4月20日:輸入取引および繰延ヘッジの振替
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 備考 |
| 仕入 | 56,500 | 買掛金 | 56,500 | 商品輸入(直物113円) |
| 仕入 | 2,000 | 為替予約 | 1,400 | 繰延ヘッジ損益の振替 |
| 繰延税金負債 | 600 | 税効果の振替を含む |
5月20日:予約決済および代金支払
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 備考 |
| 現金預金 | 4,000 | 為替差益 | 4,000 | 為替予約決済(116円−108円) |
| 買掛金 | 56,500 | 現金預金 | 58,000 | 輸入代金支払(116円) |
| 為替差損 | 1,500 | 為替差損の認識 |
金利スワップどヘッジ会計 ― 損益認識を同じ期間へ、繰延ヘッジ処理!
| 社長 | それにしても、借入金1億円の金利は、金利スワップをしたけど、毎年ドキドキするな…。 |
| 経理 | そこで使うのが、ヘッジ会計の「繰延ヘッジ」です。 |
| 投資家 | 原則と何が違うんだ? |
| 経理 | 決算時にスワップの時価評価をするのは同じですが、評価差額を損益に出さず、いったん純資産に繰り延べるんです。 |
| 社長 | じゃあ、その1,000千円の評価益はどこに行くんだ? |
| 経理 | 「繰延ヘッジ損益(純資産の部)」に700千円、そして税効果(30%)として繰延税金負債300千円を計上します。 |
| 投資家 | つまり、評価益1,000千円=純資産700+税金300ってことだな。 |
| 経理 | そうです。そして、将来の利息支払のタイミングに合わせて、繰延ヘッジ損益を少しずつ損益に振り替えていくんです。 |
| 社長 | それなら、実際の利息の動きと会計の数字がちゃんと揃うな! |
| 経理 | まさにそれが目的です。経済的な実態と会計のタイミングを一致させるのが、繰延ヘッジの役割なんです。 |
| 社長 | うーん、原則処理よりも、経営の感覚に近いな。これなら安心して眠れそうだ🐾 |
| 区分 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 借入・スワップ契約締結時(X1年4月1日) | 現金預金 | 100,000 | 借入金 | 100,000 | 借入実行 |
| 借入・スワップ契約締結時(X1年4月1日) | ― | ― | ― | ― | ※金利スワップ契約は時価ゼロのため仕訳なし |
| 利息支払・金利交換(X2年3月31日) | 支払利息 | 3,500 | 現金預金 | 3,500 | 借入金利:100,000 × 3.5% |
| 利息支払・金利交換(X2年3月31日) | 現金預金 | 500 | 支払利息 | 500 | スワップ差額受取(固定3%支払 − 変動3.5%受取)を利息に加減 |
| 決算時スワップ時価評価(X2年3月31日・原則処理) | 金利スワップ | 1,000 | 為替差益(またはデリバティブ評価益) | 1,000 | スワップの時価評価益を当期損益に計上 |
| 決算時スワップ時価評価(X2年3月31日・繰延ヘッジ処理) | 金利スワップ | 1,000 | 繰延税金負債 | 300 | 税率30%で税効果計上 |
| 決算時スワップ時価評価(X2年3月31日・繰延ヘッジ処理) | ― | ― | 繰延ヘッジ損益 | 700 | 評価益の純資産振替(損益に出さない) |
特例処理(あたかも最初から固定借入)
| 社長 | でも、もっとシンプルな方法はないのか? |
| 経理 | 実務で一番よく使われるのが「特例処理」です。 |
| 投資家 | それって、ヘッジ会計の例外だよな。 |
| 経理 | はい。借入金の金利と金利スワップの金利がほぼ同じ場合に使えます。 |
| 社長 | どう処理するんだ? |
| 経理 | 借入金の変動金利の支払と、スワップの変動金利の受取を相殺して考えます。 |
| 投資家 | すると? |
| 経理 | 固定金利2%の支払だけが残ります。 |
| 社長 | じゃあ、金利スワップの時価評価は? |
| 経理 | しません。会計上は、最初から固定金利で借りたように扱います。 |
| 投資家 | デリバティブが表に出てこないのが、特例処理の特徴だな。 |
| 社長 | なるほど、同じ金利スワップでも、ずいぶん違うな。 |
| 投資家 | 原則処理は「時価評価して即損益」。繰延ヘッジは「時価評価するけど、損益は後回し」。特例処理は「そもそも時価評価しない」。 |
| 経理 | 金利を変えるための取引なのに、会計の見え方が3通りあるわけですね。 |
| 社長 | よし、これで金利スワップとヘッジ会計の全体像がつかめたぞ! |

