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ストック・オプションとは - やる気スイッチは「自社株」で!
| 社長 | みんな最近元気ないなぁ💦 ここは一発、現金のボーナスを配ってやる気を引き出すか! |
| 経理 | 社長、現金もいいですけど、ここはストック・オプションを導入しませんか? |
| 社長 | ストック・オプション? なんだか難しそうだなあ。 |
| 投資家 | 要するに、会社が従業員等に新株予約権を報酬としてあげることだ。自社の株をあらかじめ決めた価格で買える権利だな。 |
| 経理 | そのとおりです。これは給料の代わりではなく、あくまで追加的な報酬として付与するものです。従業員から対価をもらったりはしませんよ。 |
| 社長 | なるほど、タダであげる「ご褒美」か! じゃあ、みんな明日からすぐ権利を使えるようにしてあげよう! |
| 投資家 | おいおい、待てよ。何もしない奴に権利をあげても意味がないだろ。これはインセンティブ制度だぞ。 |
| 経理 | さすが投資家さん。通常は、権利を行使できるまでにクリアすべき権利確定条件を付けます。「◯年勤務すること」といった勤務条件や、「売上◯億円達成」などの業績条件ですね。 |
| 社長 | あー、なるほど! 「頑張って条件をクリアしたら、株を買う権利あげるよ」ってことか。それならモチベーション上がるね🐾 |
| 経理 | はい。この条件を達成して初めて、権利が行使できる日が来ます。これを権利確定日と言います。 |
| 社長 | 仕組みは分かったけど、会計処理はどうなるんだ? ボーナスみたいにすぐ費用になるの? |
| 投資家 | いや、権利をあげた日(付与日)には何もしない。仕訳はなしだ。 |
| 経理 | そのとおりです。費用計上するのは、付与日から権利確定日までの対象勤務期間の間です。この期間に、働きに応じて少しずつ費用化していくんですよ。 |
| 社長 | ふむふむ。その時の勘定科目はなんだっけ? |
| 投資家 | 「株式報酬費用」だ。これは人件費の一種として計上されるから、「販売費及び一般管理費」の区分だな。 |
| 経理 | そのとおりです! そして、相手勘定は「新株予約権」(純資産)ですね。もし条件を達成できずに権利が消滅したら、それは失効となり、新株予約権戻入益として利益に戻します。 |
| 社長 | なるほど、「頑張る期間(対象勤務期間)」に合わせて費用にするんだな。よし、これで会社も従業員もWin-Winを目指すぞ!✨ |
ストック・オプションの会計処理の全体像
1.付与日(スタート)
- 会計処理:仕訳なし
- 理由:まだ労働の提供を受けていないため。
2.対象勤務期間(頑張る期間)
- 会計処理:決算ごとに費用計上
- 仕訳:
- (借)株式報酬費用 ××× (貸)新株予約権 ×××
- 仕訳:
3.権利確定日以降(ゴール)
- 権利行使された時:通常の新株予約権と同じ(資本金等へ振替)。
- 失効した時(使わなかった時):
- 仕訳:
- (借)新株予約権 ××× (貸)新株予約権戻入益 ×××
- 仕訳:
株式報酬費用 - 辞める人の分まで払わない!
| 社長 | 前回、ストック・オプションは「頑張る期間(対象勤務期間)」に費用にするって言ってたけど、具体的にいくら計上すればいいんだ? |
| 経理 | まず、付与した日に「ストック・オプション1個あたりの公正な評価単価」を計算します。これは通常、市場価格がないので専門的な計算技法を使いますが、試験では与えられた数値を使えばOKです。 |
| 投資家 | その単価に「付与する数」を掛けて、ストック・オプションの総額(公正な評価額)を出すんだ。ここまでは簡単だな。 |
| 社長 | よし! じゃあ「単価×全員分」を、期間で割れば毎年の費用が出るな! 電卓叩くぞー! |
| 経理 | 社長、ちょっと待ってください💦 全員が最後まで残ってくれるとは限りませんよね? 途中で退職する人もいるかもしれません。 |
| 社長 | うっ…確かに。この業界、入れ替わり激しいからなぁ😢 |
| 投資家 | だから、最初から辞める人を見込んでおく必要がある。これを失効見込という。最初から辞める予定の奴の分まで費用計上するのはナンセンスだからな。 |
| 経理 | そのとおりです。計算式は、「(当初の人数 - 失効見込人数)× 単価」となります。この金額を、対象勤務期間で月割計算して、各期に配分していくんです。 |
| 社長 | なるほど。「辞めそうな人」を引いて計算するのか。でもさ、もし予想より多くの人が辞めちゃったらどうするの? |
| 経理 | その時は計算し直します! 決算のたびに、「これまでの経過期間で本来計上すべきだった累計額」を計算し、そこから「前期までに計上済みの額」を引いて、当期の費用を出すんです。 |
| 投資家 | いわゆる差額補充法的な考え方だな。当期に必要な分を差額で調整するわけだ。 |
| 社長 | むむむ…ちょっとややこしいな💦 つまり、毎年「見込み」を修正しながら進んでいくってことか。 |
| 経理 | はい。そして最後、権利確定日が来たら、実際に権利を得た人数が確定しますよね? |
| 投資家 | そこで初めて、確定した人数に基づいて最終的な費用を計算する。見込みと実績のズレは、最後の年度で全部調整されることになるわけだ。 |
| 社長 | なるほど! 予想でスタートして、最後は「実数」で着地するわけか。これなら合理的だね🐾 |
株式報酬費用の計算手順
1.ベースとなる金額の計算(公正な評価額)
- 式: 公正な評価単価 ×( 付与人数 - 失効見込人数 )
- イメージ:辞めそうな人の分は最初から引いておく!
2.毎期の費用計上(期間配分)
- 失効見込がある場合:
- その期末時点での「あるべき累計費用」を計算する。
- そこから「前期までに計上した費用」を引く。
- 差額を「当期の株式報酬費用」とする。
- 当初の失効見込がゼロまたは不明の場合
実際の退職者数を基に、株式報酬費用を計算する。
3.最終年度(権利確定日)
- 失効見込人数ではなく、実際の確定人数を使って計算し、ズレを最終調整する。
権利確定日後の処理 - 使われる権利、消えゆく権利
| 社長 | よっしゃー! ついに権利確定日が来たぞ! みんなよく頑張ったなぁ😢 これで今日からは、従業員が権利を使って株主になれるってことだな! |
| 経理 | そうです、社長。これまでの「対象勤務期間」が終わったので、毎年の費用計上(株式報酬費用)はもう終わりです。ここからは、実際に「権利が使われた時(権利行使)」と「使われなかった時(失効)」の処理になります。 |
| 投資家 | 勘違いするなよ。権利確定日になった瞬間に何かの仕訳をするわけじゃない。従業員がアクションを起こした時に初めて動くんだ。 |
| 社長 | おっと、そうだった💦 じゃあ、従業員が「株を買います!」って言ってきたらどうなるの? |
| 経理 | それが権利行使です。従業員からお金(権利行使価額)が払い込まれます。会社は新株を発行するので、資本金が増えますね。 |
| 投資家 | ここで重要なのは、今まで積み上げてきた新株予約権も一緒に取り崩すことだ。 |
| 経理 | そのとおりです。仕訳の借方に「現金」と「新株予約権(今まで貯めた分)」が入り、その合計額が貸方の「資本金(または資本準備金)」になります。 |
| 社長 | なるほど! 「従業員が払ったお金」+「会社が積み立てたご褒美分」が、新しい株の価値になるんだな。 |
| 投資家 | もし新株発行じゃなくて、会社が持っている自己株式を渡す場合はどうだ? 分かっているだろうな? |
| 経理 | もちろんです! その場合は、貸方が「資本金」ではなく「自己株式」になります。帳簿価額とのズレが出たら、「その他資本剰余金」で調整します。 |
| 社長 | ふむふむ。じゃあさ、逆に「株価が下がったから権利を使いたくない」って人がいたらどうなるの? 権利の期限が切れちゃったら…。 |
| 経理 | それは権利の失効(行使期間満了による失効)ですね。従業員は権利を使わずに終わります。 |
| 社長 | ええっ、せっかく費用計上してきたのに、無駄になっちゃうのか!? |
| 投資家 | いや、会社にとっては損じゃない。今まで負債的な意味合いで純資産に計上していた「新株予約権」が不要になるんだ。だから、それを取り崩して利益にする。 |
| 経理 | 科目は新株予約権戻入益です。これは損益計算書の特別利益になります。 |
| 社長 | おお! 使われなかったら会社の利益になって戻ってくるのか! まさに「戻入益」だな。どっちに転んでも会計はうまくできてるんだねぇ🐾 |
権利確定日後の3つのパターン
1.新株を発行する場合(通常)
従業員からの払込金と、ストック・オプションの価値を合算して資本金にします。
- (借)現金預金 ×××
- (借)新株予約権 ××× ←取り崩し!
- (貸)資本金等 ×××
2.自己株式を渡す場合
自社の金庫にある株(自己株式)を渡します。差額は処分差益(または差損)となります。
- (借)現金預金 ×××
- (借)新株予約権 ××× ←取り崩し!
- (貸)自己株式 ×××
- (貸)その他資本剰余金 ×××(差額)
3.権利が失効した場合(使われなかった)
使われなかった権利は、利益として戻ってきます。
- (借)新株予約権 ××× ←取り崩し!
- (貸)新株予約権戻入益 ×××(特別利益)
黒柴投資家ちなみに、「償却債権取立益」は、債権の種類に関係なく、原則として「営業外収益」だぞ。混同しないようにな!
条件変更と評価単価 - 2階建ての増築工事
| 社長 | 大変だ💦 株価が暴落して、以前幹部たちに配ったストック・オプションが紙くず同然になってる! これじゃやる気が出ないよ😢 |
| 投資家 | いわゆる「行使価格割れ」だな。よし、ここはテコ入れだ。権利を行使できる価格を引き下げて、オプションの価値を回復させよう。 |
| 経理 | 社長、それをすると会計上は「条件変更」になります。計算が少し複雑になりますよ。 |
| 社長 | どんと来いだ! 例えば、3年かけて頑張る予定(対象勤務期間)で、10個の権利をあげたとしよう。当初の単価は30万円だったな。 |
| 経理 | はい。当初は「30万円×10個=300万円」を3年で割って、毎年100万円ずつ費用計上する予定でしたね。 |
| 社長 | ところが! 1年経った時点(2年目の期首)で条件変更をしたんだ。これで価値が上がったはずだ! |
| 投資家 | そうだな。変更前のどん底評価額が5万円だったのが、条件変更で25万円まで回復したとしよう。つまり、20万円分(25万円-5万円)だけ価値が増えたことになる。 |
| 経理 | ここが重要です! この増えた20万円(×10個=200万円)は、評価単価の増加分として扱います。 |
| 社長 | よし、じゃあ全部まとめて再計算か? 電卓貸して! |
| 投資家 | 違う。混ぜるな危険だ。「2階建て」で考えるんだ。 |
| 経理 | 社長、イメージしてください。 |
| 1階部分(当初分):当初の30万円×10個=300万円。 これは変更があっても無視して、予定通り残り2年も100万円ずつ**計上し続けます。 | |
| 2階部分(増えた分):今の20万円×10個=200万円。 これは、ここから残り2年(残存期間)で割って、毎年100万円ずつ新しく計上するんです。 | |
| 社長 | えっ、ということは… 1年目:当初の100万円だけ。 2年目:当初の100万円 + 増えた分の100万円 = 200万円! 3年目も同じく200万円! ってことか!? |
| 経理 | そのとおりです! まさに既存の建物の屋上に、プレハブを増築するイメージですね。 |
| 社長 | なるほど、増えた分は「今日から」償却スタートってわけか。ちなみにさ、逆に条件変更で単価が下がっちゃった場合はどうなるの? |
| 投資家 | もし単価が下がっても、それは無視だ。当初の計算(毎年100万円)をそのまま続ける。 |
| 社長 | ええっ!? 下がったのに安くならないの!?😢 |
| 経理 | 会社が従業員に不利な条件を押し付けて、利益を出す(費用を減らす)ことを防ぐためです。これをパラドックスの回避と言います。 |
| 社長 | うぐぐ…。従業員に優しくすると費用(2階建て)が増え、厳しくしても費用は減らない…。世知辛いけど、みんなのモチベーションのためだ! 2階建ての費用、喜んで払うぞ🐾 |
数字で見る2階建て計算
前提:
- 期間:3年
- 個数:10個
- 変更時期:X2年度期首(残り2年)
計算の構造:
- 1階部分(ベース)
- 単価:30万円(当初)
- 総額:300万円
- 配分:300万円 ÷ 3年 = 100万円/年 (X1~X3年ずっと)
- 2階部分(増築)
- 単価:20万円(増加額)
- 総額:200万円
- 配分:200万円 ÷ 2年(残存期間) = 100万円/年 (X2~X3年のみ)
各年の費用(株式報酬費用):
- X1年: 100万円 (1階のみ)
- X2年: 100万円 + 100万円 = 200万円 (1階+2階)
- X3年: 100万円 + 100万円 = 200万円 (1階+2階)
「ストック・オプション」の本試験ポイント
- 退職による失効の見込がゼロまたは不明の場合、実際退職者数を基に、ストック・オプションの公正な評価額を計算します。
- 公正な評価単価が減少した場合は公正な評価額の再計算はしませんが、権利確定後の行使価格の計算においては減少後の単価を用います。

