【シバ犬🐾簿記論】有形固定資産
目次
建物付土地の取得 - 建物を取り壊す前提なら“全部土地”!
| 社長 | 白柴くん、ちょっと相談だ。土地を買おうと思ったら、“古い建物付き”の土地が出てきたんだ。これって、やっぱり建物と土地を分けて処理するの? |
| 経理 | 実はそれ、目的によって処理が変わるんですよ。 |
| 社長 | 目的? そんなに違うのか? |
| 経理 | はい。もし社長が「建物も使うつもり」なら、建物と土地を分けて計上します。けれど、「建物は壊して土地だけ使う目的」なら、建物も土地の一部として扱うんです。 |
| 社長 | なるほど~。つまり“使うか壊すか”で、仕訳が変わるわけだな。 |
| 投資家 | そう。会計って、見た目よりも“意図”が大事なんだよな。 |
| 社長 | 今回は、建物はボロボロだし、壊して駐車場にするつもりだ。 |
| 経理 | その場合は建物部分も含めて、全部「土地」として処理します。駐車場の路面舗装などにかかった新たな工事費用は「構築物」で処理します。 |
| 社長 | なるほど。建物はどうせすぐになくなるから、(借)土地/(貸)現金、って感じにするのか。 |
| 経理 | はい。それに加えて、建物の解体費用が発生したら、それも土地の取得原価に含めます。 |
| 社長 | あー、壊すのにもお金がかかるもんね。 |
| 経理 | はい。その後の整地費用なんかも土地を使うためのものなので、土地の取得原価に含めます。 |
| 社長 | おー、土地の取得原価がどんどん膨んでくぞ! |
| 経理 | そうなんです。ただ、解体作業で出た廃材が売れた場合は、その分を土地の取得原価からマイナスしますよ♪ |
火災損失と保険金 - 未決算は“保留ボックス”!
| 社長 | うわぁ!建物が火事で全焼だ~😢 大損害だぞ! |
| 経理 | 大変ですね社長…。まず帳簿価額を確認しましょう。取得原価10,000、減価償却累計額4,000なので、帳簿価額は6,000です。 |
| 社長 | 6,000が一瞬で灰か…。でも保険には入ってるぞ! |
| 経理 | ただ、現時点では保険金の金額がまだ確定していませんよね。その場合は「火災未決算」勘定を使います。 |
| 社長 | 未決算?? |
| 経理 | 金額が確定していない取引を一時的に保留するための勘定です。焼失時点では、建物6,000を未決算に振り替えます。 |
| 投資家 | 現金の動きがなく、損得も未確定だから、仮払金や仮受金ではなく未決算を使うわけだ。 |
| 社長 | なるほど、“保留ボックス”に入れる感じか! |
| 経理 | その後、保険金が確定したら未決算を解消します。例えば、保険金が5,000なら差額1,000は「火災損失」、7,000なら差額1,000は「保険差益」になります。 |
| 投資家 | 火災損失は特別損失、保険差益は特別利益。どちらも臨時的な項目だな。 |
| 社長 | 火事でも、最終的に損か得かは、保険金が確定するまで分からないってことか。 |
| 経理 | はい。だからこそ、未決算で一度受け止めるんです。 |
火災未決算の仕訳
| 火災時 | 減価償却累計額 ×× 火災未決算 ×× | 建物 ××
| 掛けている保険金が限度。固定資産の帳簿価額を未決算勘で処理 |
| 確定時 | 未収金 ××
| 火災未決算 ×× 保険差益 ×× | 未決算勘定と保険金額との差額を保険差益or火災損失で処理する |
未収金 ×× 火災損失 ×× | 火災未決算 ××
|
✅ 圧縮記帳との関係
| 社長 | なあ白柴くん、保険差益1,000が出た場合、それを使って新しい建物を建てたらどうなるんだ? |
| 経理 | その場合は、保険差益1,000を「圧縮記帳」できます。つまり、建物圧縮損1,000を計上できるんです。 |
| 社長 | おおっ、税金を繰り延べできるってやつか! |
| 投資家 | だが注意だ。圧縮記帳ができるのは「保険差益」が出た場合だけ。 |
| 経理 | そうです。今回のように、火災損失が出た場合は圧縮記帳はできません。 |
| 社長 | 損したときは何もなしで、得したときだけ特典ありかぁ…世知辛いなぁ💦 |
法人税法における減価償却 - 税法と会計の償却方法は違う!?
| 社長 | 白柴くん、減価償却ってさ、税法だとやり方が違うって聞いたけどホントか? |
| 経理 | そうなんです社長。まず、法人税法の「定額法」は、「省令」で決められた耐用年数の償却率を取得原価に掛けるだけですが残存価額をゼロとするのが税法の特徴です。 |
| 投資家 | 会計は残存価額を考えるけど、税法は備忘価額の1円残しまでいく方式だ。 |
| 社長 | おいおい、会計で税務で残し方が違うのか😅 |
| 投資家 | こっからが本番だ。問題は定率法だ。 |
| 経理 | そうですね。では、取得原価 100,000円・耐用年数5年 の例で説明しますね。定率法の償却率は 0.40。1年目は 40,000円、2年目は24,000円…と減っていきますが、このままだと5年でゼロになりません。 |
| 投資家 | ここで登場するのが 「償却保証額」。耐用年数5年なら保証率は 0.108 だから、最低償却額は 10,800円。定率償却額がこれを下回ったら「改定償却率 0.50」で均等償却に切替だ。 |
| 経理 | この例だと3年目までは40%で行けますが、4年目の定率額は 8,640円 と保証額 10,800円 を下回るので、ここでスイッチ。残り2年は 10,800円ずつ 均等に償却し、最終年でゼロ(備忘価額1円)になります。 |
| 社長 | なるほど!税法は「前半ガンガン、後半コツコツ」って感じだな🐾 |
| 経理 | まとめると――定額法:決められた率を取得原価に掛けるだけ(税法は残存価額ゼロ)。定率法:期首簿価×定率 → 小さくなったら 改定償却(均等償却)に切替。 |
| 投資家 | 深く考えすぎず、与えられた償却率で淡々とやるのがコツだ。 |
| 社長 | よし!今日からオレ、減価償却マスターだ!😆🐾 |
200%定率法償却率の公式:【償却率= 2 ÷ 耐用年数】
| 耐用年数 | 1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 5年 |
|---|
| 定率法償却率 | ― | 1.000 | 0.667 | 0.500 | 0.400 |
| 耐用年数 | 6年 | 7年 | 8年 | 9年 | 10年 |
|---|
| 定率法償却率 | 0.333 | 0.286 | 0.250 | 0.222 | 0.200 |
総合償却
総合償却とは ― 複数の資産を一括で計算?
| 社長 | 白柴くん、ウチの工場のラインの機械や備品や工具ってどうやって減価償却してるんだ? いっぱいあって大変そうだぞ😢 |
| 経理 | 社長、そういった複数の固定資産を1つの償却単位として一括して減価償却を行う方法を、理論上「総合償却」と言います。 |
| 社長 | へえ!つまり、資産を個別に計算するんじゃないのか。なんか効率が良さそうだな! |
| 投資家 | 個々の資産ごとに償却する「個別償却」とは真逆の考え方だ。総合償却だと、個々の資産の未償却残高が明らかにならない点に注意が必要だ。 |
| 経理 | そのとおりです。実務では通常、個別償却を採用しますので、この総合償却はあまり使われていません。簿記の論点として知っておく程度で十分です。 |
| 社長 | ふ~ん、効率良さそうだが実務ではそんなに使わないのか💦 |
総合償却の計算と平均耐用年数 ―異種資産の混ぜ方
| 社長 | 簿記のテストだと思って、この3つの機械の総合償却を計算してみてくれ。残存価額はどれも取得原価の10%だぞ!A機械:200,000円(8年)、B機械:400,000円(12年)、C機械:500,000円(20年) |
| 経理 | まず、「平均耐用年数」を求めます。最初のステップは、要償却額の合計計算です。要償却額は取得原価から残存価額を引いた額です。 |
| 投資家 | 次は、各資産の年償却額を計算して合計するんだな。 |
| 経理 | A機械の要償却額は 200,000×0.9 = 180,000、B機械は 400,000×0.9 = 360,000、C機械は 500,000×0.9 = 450,000 です。この要償却額の合計は 990,000 になります。 |
| 社長 | ほう!要償却額の合計990,000円と、年償却額の合計75,000円が出たぞ!これをどうするんだ? |
| 経理 | 最後に、要償却額合計を年償却額合計で割って平均耐用年数を算出します。990,000÷75,000 = 13.2です。 |
| 投資家 | 平均耐用年数は1年未満を切り捨てるルールだから、このグループの償却期間は13年になるんだな。 |
| 社長 | なるほど、この加重平均法だと、取得原価が大きい資産の影響をちゃんと考慮できるわけか! |
| 経理 | 減価償却費は、要償却額合計990,000を、平均耐用年数13年で割った76,153(円未満切捨て)となります。 |
| 資産 | 取得原価 (A) | 残存価額 (10%) | 要償却額 (B = A × 0.9) | 耐用年数 (C) | 年償却額 (D = B ÷ C) |
| A機械 | ¥200,000 | ¥20,000 | ¥180,000 | 8年 | ¥22,500 |
| B機械 | ¥400,000 | ¥40,000 | ¥360,000 | 12年 | ¥30,000 |
| C機械 | ¥500,000 | ¥50,000 | ¥450,000 | 20年 | ¥22,500 |
| 合計 | ¥1,100,000 | ¥110,000 | ¥990,000 | – | ¥75,000 |
総合償却の除却処理 ―「要償却額」の全額消去
| 社長 | じゃあ、この総合償却のグループに入っているB機械(取得原価400,000)を、当期末に除却したらどうなる?処分価値は40,000と見積もったぞ。 |
| 経理 | 総合償却では、個別の未償却残高は不明確ですが、除却する資産については、「要償却額」の全額を減価償却累計額から消去します。 |
| 社長 | 要償却額?それは、取得原価400,000から処分価値40,000を引いた、360,000ってことか! |
| 投資家 | そのとおり。除却時の仕訳では、B機械の勘定を400,000(取得原価)で貸方に計上するのに対し、借方で減価償却累計額から360,000を消し去るんだ。 |
| 経理 | また、除却した際の処分価値40,000は、貯蔵品として計上します。 |
| 社長 | 結局、理論的には面白いけど、個々の資産の状態が見えなくなるから、ウチみたいないけいけの会社には個別償却が合ってるってことだな!効率より正確な財産把握だ!🐾 |
| 経理 | そのとおりです。資産管理の観点からも、個別償却が優れています。 |
| 勘定科目 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 |
| 減価償却累計額 | 360,000 | B機械 | 400,000 |
| 貯蔵品 | 40,000 | | |
臨時償却 ― 過去・現在・未来のどこで処理する?
| 社長 | 白柴くん、ウチで使ってる機械の耐用年数を5年から4年に短縮することにしたんだ。昔は差額を一気に費用にしてたって聞いたけど、どう変わるんだ?🐾💦 |
| 経理 | はい、その「差額を一気に費用化する」方法を臨時償却(キャッチアップ・アプローチ)と呼んでいました。今は原則として使われていません。 |
| 投資家 | 耐用年数のような見積もりの変更には、理論上、3つの処理方法(アプローチ)がある。どこに影響させるかで、変更年度の利益が大きく変わるぞ。 |
| 経理 | 新しい数字例で見てみましょう。償却対象額が ¥1,000 の機械について、2年が経過した時点で耐用年数を変更すると仮定します。 |
| 経理 | 変更前(5年)の年間償却費は ¥200 (¥1,000 ÷ 5年)。2年間の合計償却費は ¥400。帳簿価額は ¥600 です。 |
| 経理 | 変更後(4年)だと、本来の年間償却費は ¥250 (¥1,000 ÷ 4年)。2年で本来は ¥500 償却されているべきでした。 |
| 社長 | なるほど。じゃあ、¥500 – ¥400 で、過去の償却不足は ¥100 ってことだな。この¥100をどう処理するかでアプローチが分かれるのか。 |
| — | 【第2法:キャッチアップ・アプローチ(臨時償却)】 (過去の不足を「現在」にまとめて費用化) |
| 経理 | これが昔の方法です。過去の償却不足 ¥100 を、変更年度の通常の償却費 ¥250 に上乗せし、変更年度に合計 ¥350 を費用として計上していました。 |
| 社長 | 不足分を“まとめてドーン”だから、変更年度の費用がドカンと膨らむな💦 |
| 投資家 | そのとおり。一気に多額の費用が出るため、財務諸表の比較可能性が損なわれる。だから今は廃止されたんだ。 |
| — | 【第1法:プロスペクティブ・アプローチ】 (過去の不足を「未来」にわたって費用化) |
| 経理 | 今の会計は、この第1法を使います。過去の不足額 ¥100 は一時に費用化せず、将来に配分します。変更時点の帳簿価額 ¥600 を、変更後の残存耐用年数 2年 (4年 – 2年)で割って、将来の期間で配分するんです。 |
| 社長 | おお、残りの ¥600 を残りの 2年 で割るから、変更年度の費用は ¥300 (¥600 ÷ 2年)か!第2法(¥350)と比べて、第1法(¥300)の方が費用が低く、利益への影響が緩やかになるのがよく分かったぞ!✨ |
| 投資家 | そのとおり。過去を振り返らず、残りの帳簿価額を将来の残存期間にわたって配分する。利益の急激な変動を防ぎ、財務諸表を安定させるんだ。 |
| — | 【第3法:レトロスペクティブ・アプローチ】 (過去の不足を「過去」の利益剰余金で修正) |
| 経理 | ちなみに、理論上はもう一つ、第3法があります。 |
| 投資家 | これは、不足額 ¥100 を期首の繰越利益剰余金から直接マイナスして修正する方式だ。変更年度の費用としては ¥250 のみ計上する。 |
| 経理 | ただし、減価償却の耐用年数変更では、この第3法は採用されません。 |
| 社長 | 第1法は未来で調整、第2法は“今まとめて”、第3法は過去に戻るイメージ。現代会計は第1法:未来にだけ影響させるスタイルで安定性重視ってことだな!🐾 |
| アプローチ | 処理の場所 | 償却不足額 ¥100 の扱い | 変更年度の総費用 | 採用状況 |
| 第1法:プロスペクティブ | 【未来】 | 不足分を残りの2年(¥600)に含めて配分。 | ¥300 (¥600 ÷ 2年) | 現在の採用方法 |
| 第2法:キャッチアップ | 【現在】 | 変更年度の費用に上乗せ(一括計上)。 | ¥350 (¥250 [通常分] + ¥100 [一括分]) | 昔の臨時償却 |
| 第3法:レトロスペクティブ | 【過去】 | 期首の繰越利益剰余金から直接マイナス。 | ¥250 (変更後の通常の年間償却費のみ) | このケースでは不採用 |
「有形固定資産」の本試験ポイント
減価償却
- 旧定率法、定率法の減価償却で、残存価額10%が与えられていても使いません。ひっかけです。
- 生産高比例法も級数法も、(取得原価-残存価額)と、残存価額があります。
- 定率法から定額法の変更で、残存価額があるパターン。定率法で償却した後の簿価の10%しないように。当初から残存価額は固定で動きません。
- 生産高比例法は、期中取得でも月割計算はしません(使用期間ではなく利用度で計算するため)。
- 取得原価X(定率法)のn年後の帳簿価額=X(1-定率法償却率)n年後 は、使いこなせるようにしておきましょう。
- 使用を中止している遊休資産であっても減価償却します。
- 車両の買換等の推定問題で、資料に与えられている試算表が、前T/Bなのか後T/Bなのかをチェックしましょう。後T/Bの場合、車両の取得原価に旧車両の分は含まれません。
建物取壊費用
- 既存建物の取壊費用は、原則として費用処理されます。ただし、土地利用を目的として建物付き土地を取得した場合、その建物の取壊費用は土地の取得原価に算入されます。
- なお、建物の取壊しにより発生した廃材等の売却収入がある場合には、その金額を土地の取得原価から控除します。
買換え
- 車両が複数台あり、買換えが行われている場合、前T/Bの車両勘定には新たに取得した車両の取得原価が含まれていないことが多いです(たとえば、差額代金のみを仮払金に計上しているケースなど)。
貸借対照表
- 財務諸表論では、有形固定資産の表示には直接法が圧倒的に多く用いられます。前T/Bの減価償却累計額を差し引くのを忘れないように注意しましょう。